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平田文男(教授)5ページ、41k) 分子研リポート2004 | 分子科学研究所

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分子基礎理論第三研究部門

平 田 文 男(教授)

A -1)専門領域:理論化学、溶液化学

A -2)研究課題:

a) 溶液内分子の電子状態に対する溶媒効果と化学反応の理論 b) 溶液中の集団的密度揺らぎと非平衡化学過程

c) 生体高分子の溶媒和構造の安定性に関する研究 d) 界面における液体の統計力学

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 溶液内有機化合物のイオン過程に伴う電子構造と溶媒の再配置エネルギー:静電的応答と非静電的応答への分割: 溶液内電子移動反応においてはいわゆる溶媒の再配置(向)エネルギー(あるいは非平衡自由ネルギー)が本質的役 割を演じることはよく知られている。われわれは以前にいわゆるマーカスの自由エネルギー曲面を分子レベルで記 述する方法を R IS M 理論と熱力学サイクル( R IS M-T C 法)を使って提案している。[J. Phys. Chem. 99, 10526 (1995)] 本研究ではR IS M-S C F 理論とR IS M-T C 法を組み合わせた新しい方法によりアセトニトリル中のN,N-dimethylaniline (DMA )および1,4-dimethokybezene(DMB )のイオン化過程に伴う溶媒の再配置エネルギーおよび電子構造の変化を求 め,溶媒再配置エネルギ−を静電的応答と非静電的応答に分割する新しい方法を提案した。[J. Phys. Chem. B 108, 11709 (2004) に既報]

b) 水中および極性溶媒中での溶質の回転緩和に対する圧力効果:溶液内の一個の溶質分子のダイナミクスは溶液内化 学反応ダイナミクスを定式化する上で重要なステップとなる。溶液内化学反応ダイナミクスの問題ではこれまで伝 統的に溶媒を連続媒体で塗りつぶす乱暴なモデルが使われている。例えば,電子移動反応のマーカス理論やいわゆ るクラマース理論がその典型例である。このような理論では溶質は量子力学を使ってまさに原子レベルで表現する のに対して,溶媒はマクロな誘電率や粘性で特徴づけるため,その記述は空間的にも時間的にもその分解能に著し い違いがある。一方,現在の実験は溶媒の構造やダイナミクスを原子レベルの解像度で測定することができる段階 に到達しており,実験的分解能に対応可能な理論の構築はまさに焦眉の課題である。我々は昨年度そのような定式 化への第一ステップとして,R ISM理論とモード結合理論を組み合わせた方法により,溶液内の一個の溶質の回転ダ イナミクスを記述する理論を定式化し,その理論により水中におけるアセトニトリルおよびメタノールの回転緩和 速度に対する圧力効果を解析した結果,メタノールの回転緩和速度の圧力依存性は低温で顕著な極小値を示すのに 対して,アセトニトリルのそれはそれほど顕著な異常性を示さないことがわかった。本研究ではさらにアセトニト リル中におけるメタノールの回転緩和速度に関する結果を加え,水と通常の極性溶媒中での回転緩和の違いについ て物理的な考察を行った。定圧領域で水中の回転緩和が速くなる原因は概ね次ぎのとおりである。水は水素結合を 介した液体構造を反映して,非常に大きな電荷密度の揺らぎをもっており,それが極性溶質の回転運動に対する大 きな誘電摩擦の原因となる。その溶液に圧力をかけると電荷密度の揺らぎが減少し,その結果,誘電摩擦が減少し,

(2)

c) 蛋白質の部分モル容積の理論的研究:これまで我々のグループではR IS M 理論とK irkwood-B uff理論に基づき,溶液 の部分モル容積(PMV )や部分モル圧縮率(PMC )を求める理論を開発し,水溶液中の20個のアミノ酸の部分モル容 積を,ほぼ,完璧に再現すると同時に,ペプチドのヘリックス−コイル転移に基づく部分モル容積変化を定性的に求 めること成功している。本研究では文献によくあらわれる5個の蛋白質,B PT I( 58 残基), R N ase A( 124 残基), L ysozime(129残基), β-L actogloblin A(162残基), α-Chymotrypsinogen A(245残基)の部分モル容積を3次元RISMの 方法により求め,実験と比較した。その結果,3次元R ISM理論が蛋白質の部分モル容積を定量的に再現することが わかった。これは蛋白質の熱力学量を第一原理的に求め,実験結果との定量的な一致を得た最初の論文である。この 論文の中で,同時に,自由エネルギーの計算も行っているが,対応する実験結果がないため,単なる予測に止まって いる。しかしながら,本研究の結果は今後3次元R IS Mの方法を蛋白質の折り畳み問題に適用して行く上で,非常に 大きな自身を与えるものである。[Chem. Phys. Lett. 395, 1 (2004) に既報]

d)無秩序に分布した細孔内に限定された電解質溶液の構造と物性:界面近傍に吸着した分子やイオンはバルクと異な る構造や物性を示すことから非常に興味深い系である。多孔質物質−溶液界面の構造と物性は古くからイオン交換 樹脂や「分子ふるい」など工学的に重要な問題であるが,最近では,大気環境におけるアエロジェル中での光化学反 応や燃料電池など工業的応用においてもその重要性が認識されつつある。特に,炭素細孔内に電解質溶液を充填し たいわゆるスーパーキャパシタは電気自動車や携帯電話への応用が有望視されている。一方,この問題は溶液化学 や統計力学にとっても極めて挑戦的な課題を提供しており,例えば,活性炭のようにランダムに分布した細孔をど のようにモデル化するか,それと平衡にある系をどのように取り扱うかなど,従来の統計力学の方法論をはるかに 越えた理論的枠組みを要求する。

本研究ではこれまで平田グループで開発してきた方法論であるR eplica-R ISM理論を使って,無秩序に分布した細孔 内に限定された電解質溶液の構造と物性を研究した。その成果の概要は次ぎのとおり。まず,ランダムに分布した細 孔をもつ多孔質物質の新しいモデルを2成分液体混合系の統計力学に基づいて構築した。すなわち,多孔質物質を 2種類の球状ナノ粒子(仮に黒球,白球と呼ぶ)の液体混合系とみなし,その液体構造をOrnstein-Z ernike積分方程式 により求める。電解質溶液の溶媒および溶質分子は2種類のナノ粒子の一方(黒球)とだけ相互作用をすると考える のである。そうすると,溶液分子は相互作用をしない球(白球)が占める領域には存在することができることになり, この領域が「細孔」となるわけである。細孔径分布は二つの球のサイズや混合比を変えることによって調節すること ができる。

次ぎに炭化ポリ塩化ビニリデン(PV D C )の細孔内に制限された電解質溶液を対象にこの体系の R eplica-R IS M 方程 式を解き,電解質溶液の密度(濃度)および液体構造を求め,それらが細孔内に制限されたことの効果を評価した。ま ず,細孔内とバルク中における分子の化学ポテンシャルのバランスおよび電荷の中性条件から各成分の密度を求め た結果,細孔内の水の密度はバルク中に比べて3分の1程度に減少し,また,イオンのそれは約100分の1に減少す ることがわかった。これらの結果から細孔内の溶液は液体といいうよりむしろ超臨界状態に近いことが示された。 さらに動径分布関数の解析から,PV D C 細孔内に限定された溶液の構造について次ぎのような描像を得た。水分子 は水素結合クラスターを形成し,主に細孔表面に分布している。イオンは細孔内にはほとんど存在せず(平均して細 孔内に一対程度),小さなカチオンは周りにいる水分子を強く引き付け水和イオンを形成している。一方,アニオン は裸で細孔表面に存在している。[学術雑誌に投稿準備中]

(3)

B -1) 学術論文

A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Molecular Description of Electrolyte Solution in a Carbon Aerogel Electrode,” Cond.

Matt. Phys. 6, 583–609 (2003).

T. YAMAGUCHI, S. -H. CHONG and F. HIRATA, “A Mode-Coupling Analysis of the Translational and Rotational Diffusion

of Polar Liquids; Acetonitrile and Water,” J. Mol. Liq. 112/3, 117–124 (2004).

Y. KOBORI, T. YAGO, K. AKIYAMA, S. TERO-KUBOTA, H. SATO, F. HIRATA and J. R. NORRIS, Jr., “Superexchange

Electron Tunneling Mediated by Solvent Molecules: Pulsed Electron paramagnetic Resonance Study on Electronic Coupling in Solvent-Separated Radical Ion,” J. Phys. Chem. B 108, 10226–10240 (2004).

H. SATO, F. HIRATA and S. SAKAKI, “Distortion of Electronic Structure in Solvated Molecules: Tautomeric Equilibrium

of 2-Pyridone and 2-Hydroxypridine in Water Studied by the RISM-SCF/MCSCF Method,” J. Phys. Chem. A 108, 2097–2102 (2004 ).

H. SATO, Y. KOBORI, S. TERO-KUBOTA and F. HIRATA, “Theoretical Study on Electronic and Solvent Reorganization

Associated with a Charging Process of Organic Compounds: 2. A New Decomposition Procedure into Electrostatic and Non- Electrostatic Responses,” J. Phys. Chem. B 108, 11709–11715 (2004).

T. IAMI, A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Solvation Thermodynamics of Protein Studied by the 3D-RISM Theory,”

Chem. Phys. Lett. 395, 1–6 (2004).

A. MITSUTAKE, M. KINOSHITA, Y. OKAMOTO and F. HIRATA, “Combination of the Replica-Exchange Monte Carlo

Method and the Reference Interaction Site Model Theory for Simulating a Peptide Molecule in Aqueous Solution,” J. Phys. Chem. B 108, 19002–19012 (2004).

I. OMELYAN, A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Microscopic Description of a Liquid-Vapor Interface by an Inhomo- geneous Integral Equation Theory,” Chem. Phys. Lett. 397, 368–373 (2004).

B -3) 総説、著書

F. HIRATA, “Molecular Theory of Solvation,” Kluwer-Springer Academic (2003).

B -4) 招待講演

F. HIRATA, “Role of Water to Stabilize and Destabilize Biomolecules Conformation: 3D-RISM Study,” 特定領域「水と生体

分子」第一回公開ワークショップ , 千里ライフサイエンスセンター, 2004年 1 月 .

平田文男, 「生体分子の構造安定性と水」, 立命館プロジェクト研究シンポジウム「蛋白質を主とする生体系の化学―生 物科学と溶液化学の融合」, 立命館 , 草津 , 2004 年 1 月 .

F. HIRATA, “Theoretical Study of Vapor-Liquid and Liquid-Liquid Interfaces,” Theory and Application of Computational Chemistry (TACC), Gyeongju (Korea), February 2004.

平田文男, 「計算科学的手法を駆使したナノサイエンスでの新しい方法論の構築」, NA R E GIシンポジウム2004, 東京, 2004 年 2月 .

F. HIRATA, “Vapor-liquid phase transition and electric double-layer in nanoporous media,” The 1st International FU-AMI symposium on Structure and properties of Interfacial fluids on the nanometer scale,” Fukuoka, March 2004.

(4)

平田文男 , 「膜の安定性と揺らぎを解明するための理論的ストラテジー」, 電気化学会71回大会シンポジウム「膜と溶液の 化学」, 慶応大学(日吉キャンパス), 2004年 4月 .

平田文男 , 「生体分子の機能を司る溶媒としての水」, 生物物理「夏の学校」, 大学セミナーハウス, 八王子 , 2004 年 8 月 . F. HIRATA, “Solvation of Biomolecules Studied by the RISM Theory,” Ionic Softmatter: Novel trends in theory and applications,

Lviv (Ukraine), April 2004.

F. HIRATA, A. KOVALENKO and I. OMELYAN, “A molecular theory of fluids phase equilibria and interfaces,” 18th

International Chemical Thermodynamics Conference, Beijing (China), August 2004.

F. HIRATA, H. SATO and N. YOSHIDA, “Auto-Ionization of Water in Ambient and Supercritical Conditions,” 14th International Conference on the Properties of Water and Steam (ICPWS), Kyoto, August 2004.

平田文男, 「3次元R ISM理論に基づく第一原理蛋白質フォールデイングの可能性」, 特定領域「水と生体分子」・「タンパク質 の一生」共同主催シンポジウム「蛋白質のフォールデイングとミスフォールデイング」, 日本科学未来館 , 東京 , 2004年 9月 . 平田文男, 「グリッドコンピューテイングが拓くナノサイエンス」, 崇城大学「生命科学」特別講演会「総合科学へ進化する21世 紀の生命科学―がん治療からコンピュータ科学まで―」, ウエルシテイ熊本 , 2004年 10月 .

B -6) 受賞、表彰

平田文男 , 日本化学会学術賞 (2001). 佐藤啓文 , 日本化学会進歩賞 (2002).

B -7) 学会及び社会的活動 学協会役員、委員

溶液化学研究会運営委員長 (2004- ). 学会誌編集委員

Phys. Chem. Commun., Advisary Board.

Theoretical and Computational Chemistry, 編集委員.

C ) 研究活動の課題と展望

当グループではこれまで多原子分子液体の統計力学であるR IS M理論を他の理論化学・物理の手法と組み合わせ,溶液 内の様々な化学過程を解明したきた。しかしながら,これまである意味では意識的に避けてきた問題がある。それは相転移 および相平衡の問題である。気液相転移,液液相分離,ミセル形成,などはその例である。相の変化は常にある種の熱力学 的不安定性と隣り合わせであり,そのような領域の近傍ではわれわれが依拠する積分方程式の数値解も不安定となり,しば しば発散する。これは物理的発散である。一方,液体の積分方程式は非線形の方程式であり,その特性として,本来,物理 的に安定な領域でもしばしば発散する。これまで,液体の積分方程式理論が相変化の問題に対してあまり有効ではなかっ た理由はまさにこの点にある。すなわち,相が変化する領域では「物理的発散」と「数値的発散」の区別がつかず,相転移を 明確に特徴づけることができなかったのである。ふたつの相の境界ではもうひとつ難しい問題がある。それは平均の密度(濃 度)が位置に依存することである。これまで,われわれが発展させてきた液体論は平均の密度や濃度が場所によらない,す なわち,一様な液体を前提にしてきた。したがって,二つの相の境界の化学を解明するためにはこのような制限を取り払う必

(5)

最近,当グループでは新しい積分方程式理論(R IS M+K H理論)を開発した。この理論はちょうどvan der W aals 理論と同様 に物理的に不安定な領域でも数値解を与えるため,Maxwellの等面積仮説のような理論構成を行えば,気液および液液共 存線を決定することができる。また,密度汎関数理論との結合により,二つの流体の界面の問題を解明することができる。今 後,この理論により気液相転移,液液相分離を含む流体間の様々な相転移現象に取り組む予定である。それらには,気液相 転移,液液相分離,ミセル形成,膜融合などを含む。

これまで,相分離や相平衡に対する興味はもっぱら物理的それであった。スケーリング則やユニヴァーサリテイークラスなど はその典型的な例であり,いわば,相転移現象の物理的普遍性に焦点が当てられていた感がある。 当研究グループで追 求する相転移,相分離現象における興味の中心はその「化学」にある。例えば,ある溶液は温度を上げていくと二つの液液 相に分離し,また,別の溶液は逆に温度を下げていくと二相に分離する。上下に臨界点をもつ溶液も存在する。そのような相 の挙動は分子間相互作用の異なる組み合わせから生じるものであり,極めて「化学的」な性格をもっている。

参照

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関谷 直也 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授 小宮山 庄一 危機管理室⻑. 岩田 直子

【対応者】 :David M Ingram 教授(エディンバラ大学工学部 エネルギーシステム研究所). Alistair G。L。 Borthwick